飲食店の開業費を経費にする仕組みを解説。対象となる支出を知ろう
飲食店の開業準備にかかった費用は、経費として計上できます。開業費を経費にする仕組みや、経費にできる費用の種類を知っておけば、処理がスムーズになり節税効果も高められるでしょう。経費化できる開業費用の範囲や、注意すべきポイントを解説します。
※記事は2021年9月現在の情報になります。
サイト管理者の紹介
甲田拓也 (公認会計士税理士甲田拓也事務所 代表) 早稲田大学卒業後、PwCグローバルファームや個人会計事務所を経て現事務所を設立。節税、資金繰り、IPO・マーケ支援を行うプロ会計士として活動。YouTubeでも情報発信中! |
経費とは
経費とはどのような費用のことを指すのでしょうか。開業時の経費について考える前に、まずは経費の基礎をおさらいしておきましょう。
事業のために使った費用
経費とは、事業を行うために使用した費用です。人件費・消耗品費・宣伝広告費・通信費・旅費交通費・接待交際費などが該当します。
事業では大小さまざまな費用が発生するため、費用ごとの扱いを仕訳の際に悩むことも多いでしょう。基本的には、収入を得るために使われた費用かどうかで判断します。
例えば、個人事業主が友人との飲み会で使った費用は経費にできませんが、取引先との打ち合わせで発生した飲食費は、会議費や接待交際費として処理できます。経費計上する費用のそれぞれに対し、売上につながることを説明できなければなりません。
経費を収入から控除し所得を減らせる
事業で得た収入から経費を引いたものが『事業所得』です。事業所得にかかる所得税は『所得金額×税率-税額控除額』の計算式で算出されます。
所得金額が少ないほど所得税額も減るため、事業収入からできるだけ多くの経費を差し引くことができれば、より所得が減り節税につながります。
少しでも多く手元に利益を残すためには、正しい経費計上による節税を意識することが重要です。経費になる費用は基本的にすべて計上し、所得を減らす努力をしましょう。
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開業前の支出は経費にできる
開業前に発生した支出は経費として計上可能です。基本的な処理方法について詳しく解説します。
開業日の定義
開業時の支出を考える際に重要なのが『開業日』です。開業日を境に、前後の費用の扱い方が異なります。
法人の場合は、法的な手続きを踏んで会社を『設立』した日を開業日とするのが一般的です。個人事業主は登記などの手続きがないため、自分で開業日を決められます。
個人事業主が開業する際は、原則として開業後1カ月以内に、『開業届』を税務署へ提出しなければなりません。開業日を書く欄に、自分で決めた開業日を記入しておきましょう。
開業日が明確に定まったら、開業日前に発生した費用を開業費として処理できるようになります。
開業費は繰延資産として償却
開業費は、会計においては、
『繰延資産』として処理し、毎年少しずつ経費計上する償却の形をとります。
開業費は開業後に長く事業を進めるための費用であり、初年度に一括処理すべきものではないためです。『固定資産』と同じような扱いで将来に繰り延べて費用化することになります。
繰延資産を償却する際は、『繰延資産償却』や『開業費償却』の勘定科目を使います。開業費を5分割し、5年間にわたり均等に計上していくのが会計は原則です。
任意償却のメリット
ただし、税法においては開業費は、5年間の均等償却以外に、償却期間や金額を自由に決められる『任意償却』でも処理できます。開業費の税法上の償却方法は任意償却です。
例えば、開業初年度から数年間は5万円ずつ償却し、収入が増えた年に20万円償却するなどの形で処理できます。最初の数年間はまったく計上せず、あるタイミングで開業費の全額を経費にすることも可能です。
その年の収入に合わせて金額を決めれば、効果的に節税できます。実務の現場でも、開業費は任意償却で処理するのが一般的です。
飲食店の開業費として計上できるもの
オープン前に発生する費用のうち、開業費として扱えるものを紹介します。開業に必要な費用の多くを開業費にできることが分かるでしょう。
店舗に関する費用
店舗物件の契約時に不動産会社へ支払う仲介手数料や、開業前までに発生する賃料は、開業費として扱うことが可能です。
オープン前の内外装工事費用も開業費にできます。こだわりの内装にしたり、外壁塗装で壁を好きな色に変更したりすれば、費用も比較的高額になるでしょう。
テーブル・いす・食器・厨房機器などにかかる購入費も、オープン前に必要な費用です。近隣にチラシを配る場合は、チラシ代などの販促費用がかかります。
オープン前に試作品を食べてもらったり、調理の練習をしたりする場合は、水道光熱費や準備した食材費も開業費とすることが可能です。
届出や手続きにかかる費用
飲食店を始めるためには、保健所から飲食店営業許可を取得しなければなりません。酒類をメインで提供し深夜営業も行う飲食店なら、警察署に深夜営業許可の届け出を行う必要があります。
営業許可を取得する際に発生する費用も、オープン前の費用にすることが可能です。飲食店営業や深夜営業の許可は、それぞれ1万5000~2万円程度かかります。
手続きを行う時間がない場合や、手続きが面倒な場合は、行政書士に依頼すれば代行してもらえます。行政書士に支払う報酬も開業費に該当する費用です。報酬の相場は3万~10万円が目安です。
その他の費用
飲食店の開業に合わせて会社案内やパンフレットを作成する場合や、お店のホームページを立ち上げる場合は、作成費用を開業費にできます。
消費者の動向を調べるためにマーケティング調査を行うこともあるでしょう。調査のために使った書籍代や交通費などの費用は、すべてオープン前のコストとして扱えます。
飲食店経営に関するセミナーや研修会に参加して費用を支払っているなら、これも開業費です。参加費が節税につながる上、学習したことが自分の財産にもなるため、有料のセミナーでも積極的に参加してみるとよいでしょう。
開業費に関する注意点
開業費や経費について考える際に注意すべきポイントを解説します。開業費に入らない費用や、個人事業主と法人の違いを押さえておきましょう。
間違えやすい開業費に入らないもの
物件の賃貸契約時に支払った敷金は、後で返金されるため開業費に入りません。礼金に関しては、20万円未満なら経費(支払手数料など)、20万円以上なら開業費となります。
長期使用する設備や機械のうち、一つあたり10万円以上するものは『固定資産』です。開業前後にかかわらず、1年以上使用する10万円以上の資産は、原則として減価償却しなければなりません。
個人事業主と法人の違い
法人の開業費は、税法上『法人設立後、営業開始までに発生した特別な支出』と定められています。開業準備のためだけにかかったコストしか該当しません。例えばチラシの作成費用や許認可取得費用などです。
人件費・家賃・水道光熱費・通信費などは、営業開始後も発生する経常的なコストとみなされるため、支出年度の経費として扱います。
法人の開業費の会計処理は、個人事業主のケースと同様に繰延資産として処理します。任意償却も可能です。
法人設立前に発生した費用は、開業費ではなく『創立費』として扱います。定款の作成代行手数料や認証手数料、設立前の人件費や家賃などが該当します。創立費は設立の日付で経費とするのが原則ですが、繰延資産とすることも可能です。
領収書を保存しておく
開業前の準備で発生した費用に関しては、領収書を保存しておきましょう。プライベートの支出だと明らかに分かるもの以外は、すべての領収書を保管しておくのが無難です。
領収書を確定申告時に提出する必要はありませんが、経費として申告した費用に関しては、領収書を申告後7年間保存することが義務づけられています。
万が一税務調査が入った場合、領収書がなければ経費計上した根拠を示せません。どんなに小さな出費でも、経費にするならレシートや領収書を残しておきましょう。
まとめ
飲食店を開業する際、開業準備で発生したコストは繰延資産として償却します。任意償却で処理すれば、収入に合わせて経費を決められるため、効果的な節税が可能です。
飲食店の開業費として計上できるものには、店舗に関する費用や届出・手続きにかかる費用などが挙げられます。開業費の知識を身に付けて、正しい申告を行いましょう。
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