退職給付引当金とは?計算方法・原則法・簡便法をわかりやすく解説
, 経費・勘定
従業員の退職金と関係するのが「退職給付引当金」です。就業規則にもとづいた退職金制度があるなら、退職給付引当金を計上することになります。
しかし仕組みが複雑で理解しづらいと感じている人も多いでしょう。
そこで退職給付引当金の概要・計算方法などをわかりやすく紹介します。退職給付引当金について知る参考のひとつとしてお役立てください。
1.退職給付引当金とは?
退職給付引当金とは将来従業員に支払う予定の退職金に備えて積み立てを行うときに使う勘定科目のことです。
企業年金連合会の用語集から概要を引用して紹介します。
退職給付会計において、企業年金制度と退職一時金制度に関する当期末の負債として、個別財務諸表の貸借対照表に計上されるものであり、退職給付引当金は次のように算出される。
なお、退職給付引当金がマイナスとなる場合は「前払年金費用」となり、貸借対照表に資産として計上される。 (引用:退職給付引当金|用語集|企業年金連合会) |
退職金規定がある会社では、従業員の働きに対して将来の退職金の支払い義務を負うことになります。その退職金を支給するときに備えて計上しておくのが「退職給付引当金」です。
そもそも引当金とは、将来発生するであろう費用・損失への備えとして準備するお金を意味します。
定年退職を除いて、従業員がいつ退職するかはわかりません。同じタイミングで大勢の従業員が退職してしまい、多額の退職金が発生する可能性もあるでしょう。そこで備えとして、当期の予算に将来発生見込みの退職金を繰り入れて計上するのです。
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2.退職給付引当金を計上するのは確定給付制度の場合
企業が導入している退職金制度の種類は、大きくわけると「確定給付制度」「確定拠出制度」の2つです。
それぞれの制度は、さらに次のような種類にわけられます。
確定給付 | 退職一時金制度・企業年金制度 など |
確定拠出 | 中小企業退職金共済・確定拠出年金(401k) |
確定給付とは「給付金額」が決まっている退職金制度を意味します。それに対して「掛け金の額」が決まっているのが確定拠出制度です。
確定拠出制度の場合、企業は毎月支払う掛け金を経費処理します。そのため確定拠出制度を採用しているのなら引当金の計上が不要です。
3.退職給付引当金の計算方法
計算方法を知ると退職給付引当金を算出できます。
基本的な計算式は以下の通りです。
<企業年金制度を実施している場合>
退職給付引当金=退職給付債務−年金資産−未認識債務 <退職一時金制度を実施している場合> 退職給付引当金=退職給付債務−未認識債務 (引用:退職給付引当金|用語集|企業年金連合会) |
計算に使えるのは原則法と簡便法の2種類です。
それぞれの概要を見ていきましょう。
3-1.①原則法
退職給付債務を年金数理計算で算出していく仕組みであるのが「原則法」です。原則法では「退職給付引当金=退職給付債務−年金資産−未認識債務」の式を用いて金額を出します。
それぞれの用語の意味は次の通りです。
退職給付債務 | 退職給付見込み額のうち当期末までの発生額 |
年金資産 | 外部で積み立てている退職金原資 |
未認識債務 | 計算上の差異と過去勤務費用のうち当期末時点で費用処理していない額 |
ただしすべての企業に原則法が向いているわけではありません。中小企業では事務負担が増大してしまいます。そのため条件を満たす規模の企業では簡便法を使った計上が可能です。
3-2.②簡便法
従業員300人未満の企業で使えることになっているのが「簡便法」です。簡便法では『期末ですべての従業員が自己都合退職したとき発生する見込みの退職金支給額』を「退職給付引当金」として計算します。
小規模企業等における簡便な方法
26. 従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合又は退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法を用いて、退職給付に係る負債及び退職給付費用を計算することができる。 |
金額は「退職金支給額=基本給×支給係数×退職理由に応じた割合」で算出するのが一般的な方法です。
4.退職給付引当金の仕訳
退職給付引当金は負債に該当するものであるため仕訳では貸方へと記載します。このとき借方に使用する勘定科目は「退職給付費用」です。
期末に退職給付引当金50万円を記載したとすると、仕訳は次のようになります。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
退職給付費用 | 500,000円 | 退職給付引当金 | 500,000円 |
なお初年度は全従業員分の退職金をまとめて計上する必要があるため、どうしても経費が多くなります。しかし次年度からは期首と期末の差額を積み立てていくといった流れです。
5.退職給付引当金計上での注意点
退職給付引当金計上での注意点を紹介します。
覚えておきたい注意点は次の2つです。
・実際に支払う退職金とは差額が生じる
・取締役や役員の退職金は計上できないルールである
2つの注意点について概要を紹介しますので、内容を見ていきましょう。
5-1.実際に支払う退職金とは差額が生じる
退職給付引当金は実際に支払う退職金と差額が生じて同じにはならないのが大きな注意点です。実際の退職金は、従業員が退職するときに確定します。しかし退職給付引当金として計上済みであるのは見積もりの金額であるからです。
もちろん見積もり通りの金額にならなかったとしても問題はありません。差異が出たら「退職給付引当金=退職給付債務−年金資産±差異」で計算しましょう。
5-2.取締役や役員の退職金は計上できないルールである
取締役・役員分の退職金は引当金で計上できないルールであるのも大切なポイントです。退職給付引当金では支払う退職金を見積もって計上していきます。ただし、取締役・会計参与・監査役・執行役に対する退職慰労金は対象外になるのです。
範 囲
3. 本会計基準は、一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職以後に支給される給付(退職給付)の会計処理に適用する。 ただし、株主総会の決議又は指名委員会等設置会社における報酬委員会の決定が必要となる、取締役、会計参与、監査役及び執行役(以下合わせて「役員」という。)の退職慰労金については、本会計基準の適用範囲には含めない。 |
間違えて取締役や役員の退職慰労金を計上しないよう気をつけましょう。
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6.退職給付引当金の計算方法は原則法と簡便法の2つ
退職給付引当金で使う計算方法には原則法と簡便法の2つがあります。
仕組みが複雑になっているため、会計基準や資料を読んでも「理解しづらい」と感じる人も多いでしょう。しかし業務で退職金に携わっているのであれば、いずれは退職給付引当金の内容を把握する必要があります。
まずは自社がどちらの方法で計算しているのか、確認しておかなくてはなりません。また自社の退職金について、社内規定ではどのように定められているかチェックしておくのも大切です。書類を確認したうえで実際に計算を行い、どのように処理するのか理解していきましょう。
監修者
甲田拓也 (公認会計士税理士甲田拓也事務所 代表)
早稲田大学卒業後、PwCグローバルファームや個人会計事務所を経て現事務所を設立。節税、資金繰り、IPO・マーケ支援を行うプロ会計士として活動。YouTubeでも情報発信中! |
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