飲食店の開業準備に必要なステップは?全体の流れと各項目を解説
オーナーとして初めて飲食店を開業する際、どこからどう手を付けてよいのか戸惑ってしまうものです。開業準備にはいくつかのステップがあり、準備が周到であればあるほど、開店後によい結果が残せます。準備の流れと各項目を詳しく解説します。
※記事は2021年9月現在の情報になります。
サイト管理者の紹介
甲田拓也 (公認会計士税理士甲田拓也事務所 代表) 早稲田大学卒業後、PwCグローバルファームや個人会計事務所を経て現事務所を設立。節税、資金繰り、IPO・マーケ支援を行うプロ会計士として活動。YouTubeでも情報発信中! |
飲食店開業までに必要な期間
飲食店開業までには多くのステップがあります。どれだけ念入りな準備を行うかによって、開業後の成功率が変わるでしょう。成功するオーナーは開業までにどれくらいの準備期間を設けているのでしょうか?
準備期間の目安は12カ月
店舗の規模や事業形態にもよりますが、準備期間は12カ月が目安です。閉店に追い込まれてしまうオーナーの多くは準備が不十分で、事業計画の策定や開業後のシミュレーションをしっかり行わない傾向があります。
開業までにはいくかのステップがあり、どれも軽視できません。大まかには以下の流れで進めます。
- コンセプト設計
- 事業計画策定
- 物件探し
- 店舗内外装設計・施工
- 設備・器具の購入
- 各種届出・手続き
- スタッフ採用
飲食店は敷居が低く、脱サラした素人でも始められますが、『思いつきで始めて大成功』というほど甘くはないと考えましょう。長く続く店にしていくには、これらのステップをしっかり踏んでいくことが重要です。
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ステップ1 コンセプト設計
『コンセプト』とは、全体のベースとなる構想や考え方を指します。具体的には『誰に・何を・どんなふうに提供するのか』を考えることです。コンセプトが決まらないまま船をこぎ出せば、すぐに方向を見失ってしまうでしょう。
コンセプトの決め方
「アジアをコンセプトにしたスイーツを提供したい」「癒される猫カフェを作りたい」だけでは、他店との差別化ができず、思うように集客ができない可能性があります。
SNSで情報がすぐに拡散される昨今、『思わず誰かに教えたくなるようなお店』『リピートしたくなるお店』であることが重要です。そのためには以下の7W2Hに沿って自分の考えを具体化していく必要があります。
- When(いつ):営業時間・開業時期
- Where(どこで):立地
- Whom(誰に):ターゲット層
- Which(何を):メニュー
- Why(なぜ):開業目的・目標
- How much(いくらで):提供価格
- How(どのように):接客・サービス・宣伝方法
メニュー作り
メニューは飲食店の生命線です。「開店直前に考案しても遅くない」と考える経営者もいますが、メニューはこの後の事業計画や資金調達、設備の購入などに大きく関わります。
先のコンセプトで『どのような顧客にどのようなメニューを提供するのか』の方向性を決めた後は、できるだけ早くメニュー開発に取り掛かりましょう。
「あのお店のあの料理を食べに行こう」と思われるような『看板メニュー』を考えるのが最初のステップです。
出店エリアの状況や競合店、ターゲット層の客単価なども加味して決める必要があります。使用する食材の種類や調理工程も考えましょう。差別化にはオーナーのこだわりは欠かせませんが、顧客が求めるものと乖離しないようにする必要があります。
ステップ2 事業計画策定
コンセプトを決めた後は事業計画の策定を行いましょう。事業計画書は金融機関から資金の借入を行う際に必要になるため、誰が見ても納得できる内容を目指します。
事業計画とは
『事業計画』とは、事業内容や収益の見込み、店舗の戦略などを記載したアクションプランです。コンセプトを具体的な数値に落とし込む作業ともいえます。事業計画の主な目的は三つです。
- 事業の目的や行動計画を明確にするため
- 金融機関から融資を受けるため
- 一緒に働く仲間を集めるため
多くの人は金融機関から融資を受けて事業をスタートさせます。融資する側からすれば、どのくらいの収益が出るか分からない事業者にお金を貸したいとは思いません。
明確かつ詳細な事業計画書を提出することで、金融機関は将来性や返済能力について判断するのです。
事業を一緒にやっていくパートナーを集める際にも事業計画書は欠かせません。自分目線ではなく、他人に納得してもらえるかどうかに重きを置きましょう。
事業計画の構成要素
事業計画書の書き方にこれといった決まりはありませんが、必ず盛り込みたい項目があります。
- 事業内容
- コンセプト
- 店舗の強み
- 経営戦略
- 運営方法
- 資金計画
- 利益予測
融資を受ける場合、金融機関に「返済の見込みがない」と判断されれば開業は困難です。『これがあるから勝てる』というアピールポイントを必ず盛り込みましょう。堅実な経営計画を示し、資金が確実に返済できることを示すのも有用です。
実際に作成をする際は、写真やグラフを用いて視覚的に訴える工夫をしましょう。どんなに優れた内容であっても、文字の羅列では読む気が失せてしまいます。
資金調達は物件確定後がおすすめ
「お金がないと物件が借りられない」という考えから、資金調達後に物件を探そうとする人が多く見受けられますが、『事業計画』→『物件探し』→『資金調達』の流れが理想です。
融資する側の立場から見れば、事業計画書に物件の情報が盛り込まれていないのは致命的です。「家賃も分からない」「出店する場所も曖昧」という人に対して融資するのは難しいでしょう。
先によい物件が見つかった場合は、仮押さえできるようにオーナーに交渉します。通常、仮押さえには手付金が必要ですが、交渉でなんとかなる場合も少なくありません。
ステップ3 物件探し
事業計画書ができたら、いよいよ物件探しです。1人で探すのが不安な人は、信頼できる施工会社に同行をお願いしましょう。物件選びの流れと注意点を解説します。
物件選びの流れ
基本的な流れは住居選びとほぼ同じで、『物件探し』→『下見』→『内見』→『申し込み』→『審査』→『契約』です。
物件探しでは『信頼できる不動産会社』を探し、物件の希望を伝えておくと、自分で探す時間と労力が省けます。候補がいくつか上がってきたら、物件の下見を行います。周辺環境や競合店、時間別・曜日別の通行量もしっかりチェックしましょう。
申し込み後は、物件オーナーが入居審査を行います。審査に通った場合は、契約当日までに『保証金』や『不動産会社への手数料』を用意しなければならないケースが多いでしょう。
物件選びのポイント
物件選びでは、最初に設定した『コンセプト』や『事業計画』からブレないようにする必要があります。個人的にいいなと思う物件があっても、ターゲット層のニーズに合っていなければ早めにあきらめましょう。
店舗の場所は大きく『路面店舗』『空中店舗』『地下店舗』に大別されます。例えば、ファミリーやシニアをターゲットにするのであれば、路面店かエレベーターがある物件で、かつ駐車場付きが適しているでしょう。
同じ店舗用物件でも『飲食店経営不可』とされているものもあるため、事前の確認が必要です。
物件確定前に施工会社を決めておこう
最初に施工会社を決めておくと、『物件選びに同行してもらえる』というメリットがあります。プロの目線で『希望している工事が問題なく行えるか』を判断してもらえるのです。
素人だけで物件選びをした結果、『予定した席数が確保できなかった』『建物の構造上、ガスや水道が十分に使えなかった』という事態が起きるかもしれません。施工会社が同行していると、工事の計画や見積もりが立てやすく、意思疎通もスムーズに進みます。
ステップ4 店舗内外装設計・施工
店舗のプランニング・設計・施工では各業者とのコミュニケーションが鍵です。施工開始後は業者に任せっぱなしにせずに、定期的に状況をチェックしましょう。
プランニングと基本設計
物件の契約後は、店舗のプランニングや設計を行います。期間の目安は1週間~1カ月前後です。
デザイン・設計・内装は、別々の業者に依頼するよりも、一貫して請け負う会社を選んだ方が仕上がりに統一感が生まれます。工事途中でのレイアウト変更にも柔軟に対応できる上、施工完了までの期間が短縮できるでしょう。
デザイナーや設計士と打ち合わせする際は、デザイン面の希望だけでなく、コンセプトやターゲット、戦略などもきちんと伝えるのがポイントです。施工が始まってからはやり直しが難しいため、この段階で希望は全て伝えておきましょう。
見積もり確認
デザインや設計が完成した後は、外装・内装工事の見積もりを出してもらいます。飲食店にはさまざまな形態・規模・立地があるため、費用は一概にはいえません。見積もりをする期間は1~2週間を見ておきましょう。
設備や内装が一切ない物件は『スケルトン物件』と呼ばれます。スケルトン物件で、天井・壁・床の工事を一括で行う場合は『坪単価』が費用計算の基準になります。坪単価とは、1坪あたりの内装工事費用のことです。
例えば、坪単価15万円で10坪のスケルトン工事をする場合は、最低でも150万円が必要です。ここに、電気・ガス・水道などの設備費用が加わります。
前事業者が残した設備や内装が残っている『居抜き物件』は、多くの設備や内装がそのまま使えるため、大幅なコストダウンが見込めるでしょう。
契約・着工
施工会社との契約が成立すると、いよいよ工事がスタートします。
工事には電気や排水、左官などのさまざまな業者が関わりますが、指揮を執るのは施工業者です。もし設計と施工を別々の会社に依頼した場合は、両者間の綿密なコミュニケーションが求められます。
『設計プランが完成したら、後は施工会社に全てお任せ』というオーナーもいますが、できるだけ現場に足を運び、状況を把握しましょう。設計の段階で気付かなかった問題点が浮上する場合があります。
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ステップ5 厨房機器、什器等購入
軽食を提供するカフェとメニュー豊富な中華料理店とでは、準備すべき厨房機器や什器が大きく異なります。とはいえ、飲食店を始める上で『最低限準備しておくべきもの』は共通しています。
最初に揃えるべき厨房機器
開業するにあたり、どの店舗でも以下の厨房機器は用意しておいた方がよいでしょう。
- シンク
- ガステーブル
- 業務用冷蔵庫
- 作業台(調理台)
- 製氷機
『シンク』は、食品関係営業許可の基準をクリアしているものを選びます。サイズは幅45cm×奥行き36cm×深さ18cm以上で、食材と食器の洗浄が別々に行える2槽以上でなければなりません。保健所によっては食洗器を1槽とカウントするケースもあります。
作業台は、冷蔵庫が備え付けられた『コールドテーブル』を選ぶのがおすすめです。省スペースが可能な上、作業効率がアップします。
『ガステーブル』を購入する前は、あらかじめ対応するガスの種類を確認しておきましょう。
必要な什器・備品
什器・備品は『厨房で必要なもの』と『客席で必要なもの』に分かれます。それぞれの種類と個数をリストアップしておきましょう。
- 電化製品(電子レンジ・ミキサーなど)
- 調理器具(包丁・まな板など)
- 鍋類(フライパン・中華鍋など)
- 食器類(平皿・コーヒーカップなど)
- 保存用品(タッパー・ラップなど)
- 衛生用品(ゴミ袋・洗剤など)
- 卓上用品(コースター・調味料入れなど)
- レジ周り用品(キャッシュトレー・文房具など)
- その他(清掃用具・エプロンなど)
- トイレ用品(ゴミ箱・石鹸など)
什器・備品は購入した後の『収納場所』を考える必要があります。開店後は忙しくなることが予想されるため、消耗品や保存用品は多めにストックしておくと安心です。
コストダウンを目指すなら中古品を選ぼう
厨房用冷蔵庫やコールドテーブル、食洗器は新品で買うとかなりの高額です。規模によっては、準備だけで1000万円近くの費用がかかってしまうでしょう。
厨房機器や什器は『中古品』を選ぶのも一つの手です。新品の半額程度で購入できる場合があり、うまく利用すれば初期投資が抑えられます。
中古品の厨房用品は、リサイクルショップ・ネットの中古市場・オークション・地域の掲示板などで探せます。できるだけ自社メンテナンスや保守サービスが付いているものを選びましょう。
ステップ6 オープン準備
飲食店をオープンする際に、特定の資格や許可が必要になる場合があります。有資格者がいない場合はオーナー自らが取得しなければならないため、できるだけ早めに詳細を確認しましょう。スタッフの募集は1カ月前からスタートします。
各種届出・手続き
飲食店では『食品衛生責任者』の有資格者を1名以上配置することが義務付けられています。資格者がいない場合は、食品衛生責任者養成講習会を受講した上で、資格を取得しましょう。
店舗の規模が30人以上の場合は『防火管理者』の配置も必要です。防火管理者とは消防計画を作成したり、防火管理を行ったりする管理者のことで、厳密には『甲種防火管理者』と『乙種防火管理者』の2種類があります。地域の消防署で資格を取得しましょう。
また、どんな飲食店でも『営業許可書(保健所)』がなければ店を開くことはできません。深夜0時以降に酒類を提供したい場合は『深夜酒類提供飲食店営業届』を所管の警察署に届ける必要があります。税務署には『個人事業の開廃業等届出書』を忘れずに提出しましょう。
スタッフ採用・教育
スタッフの採用はオープンの1カ月前に行うのがベターです。1カ月あれば、スタッフの教育に十分な時間が取れるでしょう。1カ月以上前に採用を決めると『辞退者』が出やすくなります。
募集方法としては、『求人情報誌・サイト』『ハローワーク』『チラシ』『ポスター』『SNS』などが有効です。人が集まらない場合は1週間~10日ほど時間を空けて、再度募集をかけてみましょう。採用者には早めに採用を通知し、研修の予定を伝えます。
誰もが同じ質のサービスが提供できるように、スタッフの研修には分かりやすい『マニュアル』を準備します。開店の1週間ほど前からは、ホールスタッフ役とお客様役を交互に演じる『ロールプレイング』を取り入れてみましょう。
まとめ
飲食店オープンまでにはいくつものステップが必要です。店舗の規模にもよりますが、準備期間は少なくとも12カ月を要します。スケジュールにはできるだけ余裕を持たせ、入念な事前調査と準備ができるように調整しましょう。
開店準備で特に重要なのが『コンセプトの設定』と『事業計画書の策定』です。物件探しや資金調達、内装設計はこの二つをもとに進めていくため、納得がいくまで掘り下げる必要があります。
準備中は複数のステップを同時並行で行うことになりますが、一つずつ着実に進めていきましょう。
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