電子帳簿保存法とインボイス制度の関係は? 制度の違いや対応のポイントを紹介
, 経費・勘定
近年は法人や個人事業主の経理業務に大きな変化がみられます。その最たる要因は、2022年から2023年にかけて立て続けに導入された「電子帳簿保存法の改正」「インボイス制度」でしょう。いずれも事業者が大きな調整を求められる制度であり、各制度の概要を知っておくことは大変重要です。
また、両者は全く別の制度ではなく、インボイスを電子データでやりとりする場合には電子帳簿保存法の要件を守る必要があるなど、関連性があります。
本記事では電子帳簿保存法とインボイス制度のそれぞれの概要と、2つの制度の関係性、インボイス(適格請求書)を電子保存する場合の要件について解説します。
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法は「税務関係の帳簿」「決算関係書類」「取引関係書類」について、電子データでの保存を認める法律のことです。
電子帳簿保存法にはデータの種類によって3つの区分があります。
- 電子帳簿等保存
- スキャナ保存
- 電子取引
このうち、電子的に授受した取引情報である「電子取引」に関しては、対応が義務化されており、紙に出力しての保存はできません。
電子帳簿等保存とスキャナ保存は、「紙の書類をデータで保管しても良い」という任意の規定なので、対応は事業者にゆだねられます。
電子取引では紙での保管ができなくなっている
電子帳簿保存法の大きな改正ポイントは、電子取引による電子データ保存の義務です。電子メールやオンライン上で受け取った「領収書」「請求書」などを紙で保存することは現在では原則として禁止されています。
以下のような行為も電子取引データに含まれるので、紙に出力しての保管はできません。
以下のようなデータは電子取引におけるデータに該当します。
- 電子メール
- クラウドサービス
- クレジットカード
- 交通系ICカード
- DVDやブルーレイなどの記憶媒体
例えば電子メールにPDFを添付する形で請求書を受け取った場合、印刷後に紙で保存するのではなく、電子取引データとして電子データでの保存が義務づけられます。
そのほか、クレジットカードや交通系ICカードの利用明細をインターネットでダウンロードする場合や、ネットショッピングで仕事用の備品や資材を発行することも電子取引に該当します。
猶予措置があっても電子データ保存は必要
電子帳簿保存法では2022年1月1日から電子取引データの電子保存が義務化されていますが、対応が遅れている事業者が多かったこともあって、2023年12月31日までの宥恕(ゆうじょ)措置が導入されました。
さらに2024年1月1日からは、廃止された宥恕措置に代わって新たな猶予(ゆうよ)措置がスタートしています。
名前は似ている両者ですが、猶予の内容は全く異なります。具体的な違いをまとめると以下のとおりです。
宥恕(ゆうじょ)措置 | 猶予措置 |
電磁的記録を出力することで作成した書面の提示または提出の要求に応じられるようにしているとき、出力書面の保存をもって電磁的記録の保存に代えることができる | 税務調査等の際に、電子取引データの「ダウンロードの求め」及び、その電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合など、一定条件を満たせば、電子取引データを単に保存しておくことができる |
宥恕(ゆうじょ)措置では紙での保存が電子データでの保存の代わりになっていたので、電子データの保存は必要ありませんでした。
一方、現在の猶予措置では「単に電子データを保存しておける=電子帳簿保存法の要件を満たさなくても良い」というもので、電子データ保存そのものは必要です。
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インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは
インボイス制度は令和5年10月1日から開始された、仕入税額控除の新しい方式のことです。
売り手は相手(課税事業者)の求めに応じてインボイス(適格請求書)を交付する義務があり、買い手が仕入税額控除をするには、一定事項が記された適格請求書の保存が必要になります。
インボイス(適格請求書)を発行できるのは登録事業者のみ
インボイスを発行することができるのは、登録番号のある「適格請求書発行事業者」のみです。納税地を管轄する税務署長の登録を受けることでインボイスを発行する国からのお墨付きを得ることができるとイメージすると分かりやすいでしょう。
なお、免税事業者が適格請求書発行事業者に登録すると、自動的に課税事業者になります。年間の売り上げや課税所得に関係なく「消費税」の納税義務が課されます。
すでに課税事業者だとしても、適格請求書発行事業者の手続きをせずに請求書を発行しても、それはインボイスとは呼びません。
登録事業者が発行した領収書でなければ、商品やサービスを仕入れる買い手は仕入税額控除を受けることができません。
適格請求書として扱われる書類の種類
仕入税額控除の対象であり、必要事項がすべて記載されている書類については、請求書以外でも「適格請求書」として扱われます。
条件を満たすことで適格請求書として扱われる書類は以下のとおりです。
請求書
レシート 領収書 納品書 仕入明細書 支払通知書 など |
レシートは買い手の名称など一部を省略することができ、そのようなものは「簡易インボイス」と呼ばれます。
電子帳簿保存法とインボイスには関係性がある
電子帳簿保存法とインボイス制度の概要をまとめてみると、以下のようになります。
電子帳簿保存法 | ・税法上、保存が必要な帳簿や領収書・請求書などを電子データで保管することを認める法律
・「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」のうち、電子取引データについては紙に印刷しての保存ができない |
インボイス制度 | 課税事業者が仕入税額控除を受ける際、インボイス(適格請求書)に記載された消費税額のみを控除する制度 |
一見すると全く異なる2つの法律ですが、実は関係性があります。
インボイス(適格請求書)は紙以外に電磁的記録(デジタルインボイス)を発行することも可能です。ただし、インボイスを電子取引データとして発行または受け取った場合は電子帳簿保存法に準じた方法での保管が必要です。
電子帳簿保存法でインボイスを保存するには2つの要件がある
電子インボイスに限った話ではありませんが、電子取引データを保存する場合は「真実性の確保」「可視性の確保」という2つの要件を満たさなければいけません。
真実性の確保
真実性の確保に求められる条件は以下のとおりです。
以下のいずれかの措置をおこなうこと
|
可視性の確保
可視性の確保に求められる条件は以下のとおりです。
・保存場所にパソコンなどの電子計算機、プログラム、ディスプレイ、プリンタ、およびこれらに関する操作マニュアルを備え付け、画面・書面に整然とした形式かつ明瞭な状態で速やかに出力できるようにする
・電子計算機処理システムの概要書を備え付ける ・以下の検索機能を確保すること ①「取引年月日」「取引先」「取引金額」の3項目 ②「取引年月日」または「取引金額」の範囲指定 ③複数の記録項目の組み合わせ |
ただし、税務職員によるダウンロードの求めに応じることができる場合には、検索機能の確保の②・③の要件は不要です。また、判定期間に係る基準期間の売上高が 1,000 万円以下の事業者、または電磁的記録の出力書面の提示や提出の要求に応じられる場合はすべての検索機能の確保の要件が不要です。
まとめ
インボイス制度では適格請求書発行事業者になることでインボイス(適格請求書)を発行できるようになります。電子インボイスでの発行も可能ですが、電子帳簿保存法に従って保存するには要件を満たす必要があります。
適格請求書の授受は「紙でのやりとり」「電子取引でのやりとり」が発生することが考えられますが、業務効率化にはデータによる書類の一元化も検討する必要があります。
2つの制度に対応したデジタル化を進めることで経理業務の効率化を図れるため、今後は2つの制度に対応したシステム導入を検討してはいかがでしょうか。
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監修者
甲田拓也 (公認会計士税理士甲田拓也事務所 代表)
早稲田大学卒業後、PwCグローバルファームや個人会計事務所を経て現事務所を設立。節税、資金繰り、IPO・マーケ支援を行うプロ会計士として活動。YouTubeでも情報発信中! |
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